地域を笑顔でつなぐ時間──地域おこし協力隊としてレクリエーションに関わった日々

地域おこし協力隊やってみた

着任の春──知らないまちでのスタート

春の風がまだ少し冷たくて、桜のつぼみがようやくふくらみ始めた頃。
私は地域おこし協力隊として、このまちにやってきました。

車で駅前を抜けると昔ながらの商店が並び、川沿いには細い遊歩道。
人通りは少ないけれど、どこか懐かしくて空気がやさしいまちでした。

着任初日は役所での顔合わせ。
「地域の皆さんと交流を深める活動をお願いしますね」と言われたものの、具体的に何をどうすればいいのかは、正直まったくわかりませんでした。

でも、ひとつだけ決まっていたのは「レクリエーションを通して人と人をつなぐこと」。
子どもも、お年寄りも、誰もが笑顔になれる時間をつくりたい。
その思いが、少しずつ私の背中を押してくれました。

最初は緊張の連続で、声をかけても反応が薄かったり、話しかけるタイミングに迷ったり。
それでも何度も顔を出しているうちに、少しずつ笑顔で挨拶を返してくれる人が増えていきました。

ノートには、地域の方々の何気ない言葉をたくさんメモしていました。
「子どもが遊ぶ場所が減ってきた」「お年寄りが集まる機会が少なくなった」──
そんな声を聞くうちに、私の中で“みんなで楽しめる時間をつくりたい”という気持ちがはっきりしていきました。


レクリエーション活動の始まり

最初に企画したのは、公民館での「レクリエーションスポーツの日」でした。
年齢も世代も関係なく、誰もが一緒に体を動かして笑える時間をつくろう。
そう思って、新聞紙を使ったボールキャッチや、輪投げ、ゆるやかなリレーなどを準備しました。

当日は準備の段階から心臓がドキドキ。
でも、最初に来てくれた小学生の女の子が「これ、やってもいいの?」と目を輝かせてくれた瞬間、緊張が一気にほどけたんです。

おじいちゃんおばあちゃんたちも最初は遠慮がちでしたが、誰かの輪が入ると「おぉー!」と歓声が上がりみんなで拍手。
最後には全員が笑顔で、「久しぶりにこんなに笑ったわ」と言ってくれました。

その一言が、本当にうれしかったです。
「やってみてよかった」と心から思いました。

それから少しずつ、月に一度のレクリエーションの日が定着していきました。
回を重ねるたびに顔なじみが増え、名前を呼び合える関係になっていくのがうれしかったです。


学校訪問で出会った子どもたち

夏が近づく頃、地域の小学校から「授業の一環でレクリエーションをお願いできますか」と声をかけていただきました。
体育館いっぱいに響く子どもたちの声。最初は緊張していたけれど、簡単なゲームを始めるとすぐに笑顔が広がっていきました。

新聞じゃんけんや協力リレーでは思わぬハプニングもありましたが、それも楽しい思い出です。
子どもたちは全力で楽しみ、こちらまで笑ってしまいました。

授業の終わりに「また来てね!」と小さな手が伸びてきました。
その手をぎゅっと握ったとき、胸の奥にぽっとあたたかい灯りがともった気がしました。

担任の先生が「みんな、普段よりずっと元気でしたよ」と言ってくださって、本当にうれしかったです。
レクリエーションって心をほぐしてくれるんだなと、あらためて感じた時間でした。


手づくりのクラフト体験と準備の裏側

秋になると、地域センターで「木のクラフト体験」を開くことになりました。
木片を使って小物を作ったり、飾りを作ったり。
世代を超えて楽しめる内容にしたいと思っていました。

でも、実際に準備を始めると、木を切ったり形をそろえたりする作業が思っていたより大変で…。
一人でやるには時間が足りず、どうしようかと悩んでいました。

そんなとき、地域の工房で見せてもらったレーザー加工機が救世主になりました。
木材をきれいにカットしたり、模様を刻んだりできる機械で、試しに使ってみたら想像以上に便利で。
小さなパーツもぴったりそろって、仕上がりもきれいでした。

子どもたちが完成品を見て「これ、どうやって作ったの?」と不思議そうに覗き込む姿が可愛くて、「これはね、レーザーで焼き切って作ったんだよ」と説明すると「すごーい!」と目を丸くしてくれました。

当日、会場は木の香りに包まれ、みんな夢中で作品を作っていました。
「おばあちゃんにプレゼントするんだ」と笑っていた男の子の言葉が今でも忘れられません。

準備は大変でしたが、あの笑顔たちを見て、すべて報われた気がしました。


ハロウィンイベントの笑顔

10月には、商店街の協力を得て「ハロウィンまつり」を開催しました。
地域全体で飾りつけをして、子どもたちが仮装して歩けるイベントです。

私は仮装グッズと、木製のネームタグを作る担当。
ここでもレーザー加工機が大活躍でした。
子どもたちの名前を刻んだタグをプレゼントすると、
「これ、ぼくの名前だ!」と胸に下げて嬉しそうに見せてくれました。

商店街がオレンジと黒で彩られ、
「トリック・オア・トリート!」という元気な声があちこちで響いていました。
お年寄りたちもかごいっぱいのお菓子を用意して、笑顔で子どもたちを迎えてくれていました。

イベントが終わるころ、
「また来年もやる?」と聞かれ、思わず「もちろん!」と答えていました。
みんなで作り上げたこの時間が、私にとっても忘れられない思い出になりました。


お年寄りとのつながり

冬が近づくと外での活動が減り、デイサービスなど室内での交流会が増えました。
昔遊びや歌の時間を通して、お年寄りと子どもたちが自然に笑い合う光景が広がっていました。

「昔はね、こうやってお手玉してたのよ」と教えるおばあちゃんの隣で、
子どもたちが真剣に練習している姿は微笑ましかったです。

みんなで童謡を歌ったときの穏やかな時間は、今でもはっきり覚えています。
世代を超えて声が重なり、笑顔があふれていました。

帰り際におじいさんが「若い人が来てくれると元気が出るね」と言ってくれて、
その言葉が胸にじんわりと残りました。


続けて見えた“地域の輪”

活動を続けるうちに、地域の人たちの関係性が少しずつ変わっていきました。
最初は「参加者」と「主催者」だった私たちが、いつの間にか「仲間」になっていたんです。

「次はこんなことやってみよう」「材料ならうちにあるよ」──
そんなやり取りが自然に生まれていきました。
子どもたちも片づけを手伝ってくれたり、保護者の方が差し入れを持ってきてくれたり。

気づけば、レクリエーションは地域の“習慣”のような存在になっていました。
スーパーで声をかけられ、「次のイベントいつ?」と聞かれるたびに、
このまちが少しずつ変わっていくのを感じました。


協力隊として学んだこと

この活動を通して感じたのは、
「楽しむことが、いちばんのつながりになる」ということでした。

特別な技術や大きな予算がなくても、
ちょっとした工夫と「一緒にやってみよう」という気持ちがあれば、
まちはちゃんと笑顔になっていくんだとわかりました。

レーザー加工機のように、道具を上手に使えば準備もスムーズになって、
ものづくりの幅も広がっていきました。
新しい発想を取り入れることが、地域を元気にすることにもつながっていると感じます。

そして何より、子どもたちの笑顔や「ありがとう」の言葉が、
いちばんの原動力になっていました。


地域おこし協力隊を目指す人へのメッセージ

これから地域おこし協力隊を目指す方がいたら、
「特別なスキルがなくても大丈夫ですよ」と伝えたいです。

大切なのは、笑顔で「やってみよう」と言える気持ち。
最初は戸惑うことも多いけれど、地域の人はちゃんとその気持ちを受け止めてくれます。

レクリエーションは、小さな“笑顔の種”のようなもの。
その種をまく場所は、全国のあちこちにあると思います。

思いきって一歩を踏み出せば、
きっとあたたかい出会いと学びが待っています。
そして、自分の手で笑顔をつくり出す喜びを味わえるはずです。


終わりに

地域おこし協力隊として過ごした時間は、
私にとって“人と人の距離が近づく時間”でした。

ハロウィンで見た子どもたちの笑顔、
クラフト体験で夢中になっていた小さな手、
お年寄りのやさしい笑い声。
そのひとつひとつが、今も心の中に残っています。

レクリエーションを通して気づいたのは、
地域の魅力は“人のあたたかさ”そのものだということでした。

今日もまた、どこかで笑い声が聞こえるような、そんなまちが増えていってくれますように──。

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